大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)79号 判決

一 請求原因一ないし同三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 取消事由1の主張について

原告は、審決が引用例の技術内容の認定を誤つている、と主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例には、「本発明の他の目的は、差当り必要でないボビンが利用する一時的貯蔵場所を有し、種々の作業が独立に続行できるという融通のきくシステムを提供することである。」(第一欄四八行~五一行)、「一つのクリールセクシヨンの全てのスピンドルに満管のボビンが置かれたときに、そのセクシヨンは貯溜場ST上にモノレール上を移動させられる。」(第三欄二四行~二六行)と記載されていることが認められるから、これらによれば、引用例には、クリールセクシヨンすなわちクリール台を一時的に貯溜する技術内容が開示されていると認めることができる。

また、同号証によれば、引用例には、「図3に示されるように、三個のセクシヨンが図示の特別のケーブル撚糸機に対する合糸用ボビンを支持するためのクリールを形成するように一緒に結合される。」(第二欄三二行~三四行)、「ケーブル撚糸作業では、必要数のクリールセクシヨンは、撚糸機の上に位置づけられ、そして、各セクシヨンはクリールを形成するように一緒に連結され、撚糸作業中の各クリールセクシヨンの動きを防止する。」(第三欄二七行~三一行)、「クリール全体は、撚糸機上に位置し、例えば、隣接するクリールセクシヨンのブラケツト9の開孔に係合するフツク8によつて結合された、数個のセクシヨンからなる。」(第二欄六行~九行)と記載されていることが認められるから、これらによれば(ここには、溜場においてクリールセクシヨンをクリールセクシヨン台列に編成してから撚糸機の上に導く旨の直接的な記載はないが)、撚糸機上において複数個のクリールセクシヨンを連結固定して使用するものであることが明らかであり、そうである以上、その必要数のクリールセクシヨンを溜場において台列に編成して導くようなことは、当業者であれば当然に考えることであるから、引用例には、原糸を塔載したクリール台を所要個数連結してクリール台列を編成する技術内容が開示されていると認めることができる。

なお、原告は、単に数台のクリール台をユニツトとしてまとめて移動させることと、クリール台を溜場に一時貯溜し、クリール台列を編成して移動させることとは別個の技術的事項である、と主張しているが、前掲甲第三号証によれば、引用例には、「前記経路(搬送路7)に沿つて前記セクシヨンを同時に移動させるために、少なくとも二個のセクシヨンを連結するための手段を有する」(第三欄五五行~五七行、第四欄一六行~一八行)との記載があることが認められ、しかも、引用例のものはモノレール搬送路7に可搬式クリール5を懸架したものであるから、そのユニツトとしての移動のためにする連結がクリール台車列の編成を意味することは明らかであつて、前示判断を妨げるものはない。

2 取消事由2の主張について

原告は、本願発明が相違点<1>に係る構成をとつていることにより、引用例のものでは得られない格別の作用効果を奏する、と主張する。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証の一ないし四によつても、生産工場において前工程の製品排出位置を次工程の受入位置と同一水準とするため、それらを同一高さに置くことは、本願発明の特許出願前に周知の事項であることが明らかであり、かつ、前掲甲第三号証によれば、引用例には、クリールセクシヨンを作業床上のレールに載架する運搬方式についても記載されている(第二欄四〇行~四四行)から、右のような技術事項を前提にすれば、前工程の処理機である管巻機Sの作業床と後工程の処理機であるケーブル撚糸機T上部のクリールセクシヨンを導入設置すべき支持台部分とを同一高さとし、かつ、それらの間又は近傍に、それらと同一高さのクリールセクシヨン貯溜所STを設けて、クリールセクシヨンを自在に走行できるようにし、クリールセクシヨンの操作及び編成作業員用とケーブル撚糸機作業員用の作業床の高さを異ならしめ、両作業員間の交錯を生じさせないようにすること、すなわち、本願発明のようにすることは、当業者であれば容易に考えつくことであり、その作用効果も本願発明に特有なものとはいえないから、原告の主張は当らない。

3 取消事由3の主張について

原告は、本願発明が相違点<2>に係る構成をとつていることにより、引用例のものでは得られない格別の作用効果を奏する、と主張する。

しかしながら、前記1に説述したとおり、引用例には、クリールセクシヨン(クリール台車)を一時的に貯溜するための場所STがあり、かつ、その貯溜されたものを撚糸機上にユニツトとして移動させる場合についての記載があり、そのユニツト構成が撚糸機全体のクリールを構成する場合には、本願発明と同様に、撚糸機の原糸交換が一回の操作で行えることは明白であるから、右の点が本願発明に特有な作用効果とするのは当らない。

次に、原告は、本願発明が、通常作業の効率を低下させることなくクリール台車の搬送作業の合理化をすることができ、搬送路が最短に近いものとなつて搬送作業の合理化ができる旨主張するけれども、前掲甲第三号証によれば、引用例のものも、クリールセクシヨン貯溜所STを、管巻機Sとケーブル撚糸機Tの設置場所とは異なり、しかも、それらに比較的近い場所に設けたものと認められるので(第三欄三行~一五行、第5図)、(引用例においては、撚糸機1の作業床とクリールセクシヨン5の作業床の高さを異ならしめる旨の開示はないので、そのことから生ずる、ケーブル撚糸機の作業員とクリールセクシヨン操作員の交錯を全く発生させるおそれがないとはいえないにしても)、クリールセクシヨンの貯溜並びにそこでの列の編成を、管巻機Sやケーブル撚糸機Tの通常作業を妨げることなく、しかも、クリールセクシヨンを前工程の処理機S(10)から格別長くない搬送路によりケーブル撚糸機T(1)へ搬送できると認められるから、右の作用効果が引用例のものに較べて格別のものとするのは当らない。

4 取消事由4の主張について

原告は、本願発明は、前工程が原糸ボビンを巻取機の側方に玉揚げする必要がある場合、引用例のものに較べて、全体としても問題のない合理化を達成することができる、と主張する。

しかしながら、本願発明の要旨は前工程の処理機を右のようなものに限定していないのであるから、そのような効果は本願発明の実施例の作用効果とすることはできても、本願発明の奏する作用効果ということはできない。

次に、本願発明が引用例のものに比して、銘柄別のクリール編成作業を容易にするものであることは当事者間に争いがないが、かかる効果は、クリールセクシヨンを無軌道式とするか(本願発明)、軌道方式とするか(引用例)に基づいて生ずる当然の差異に過ぎず、それぞれの駆動方式自体は例示するまでもなく極めて普通に知られていることであつて、無軌道方式を採用した本願発明について、発明力ある構成に係る特有の作用効果ということはできない。

三 以上のとおり、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

撚糸機等の上部又はその近接部分の支持台上に、原糸ボビンを塔載したクリール台車を導いてそのままクリールとして使用するようにした原糸交換方法において、前記クリール台車の支持台を前工程の処理機の作業床とほぼ同一の高さに連ねて設けるとともに、前工程の処理機とクリール台車の支持台との間にクリール台車連結用の溜場を設け、該溜場において前工程からの原糸を塔載したクリール台車をあらかじめ所要個数連結してクリール台車列を編成し、次いで、該当車列をそのまま駆動車で前記支持台上に導くようにしたことを特徴とする撚糸機等の原糸交換方法。

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